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by 廻 由美子

2025年5月10日、寺嶋陸也さんによるピアノ・ソロ「20年代の400年」が盛況のうちに終了いたしました。ご来場の皆さま、応援くださった皆さま、ありがとうございました!

早速、公演レポートをお届けいたします。

まずはプログラムを今一度ご覧ください。


寺嶋陸也ピアノ・ソロ〜20年代の400年〜

2025年5月10日(土)15:30 開演(15:00開場)

会場:B-tech Japan 東京スタジオ(港区虎ノ門1−1−3磯村ビル1F)

S.シャイト:イギリスの運命の女神の歌(1624出版)

F.クープラン:クラヴサン曲集 第3巻 第13オルドル(1722)

1 百合の花ひらく

2 葦

3 胸飾りのリボン

4 フランス人気質、またはドミノ (仮面舞踏会の頭巾)

 純潔〜見通せない色のドミノの中に

 恥じらい〜ばら色のドミノの中に

 情熱〜トキ色のドミノの中に

 希望〜緑色のドミノの中に

 誠実〜空色のドミノの中に

 忍耐〜灰色のドミノの中に

 恋やつれ〜紫色のドミノの中に

 媚〜色とりどりのドミノの中に

 年老いた伊達男と時代遅れの守銭奴〜緋色と枯葉色のドミノの中に

 気の良いカッコウ〜黄色のドミノの中に

 無言の嫉妬〜モーロ風の灰色のドミノの中に

 狂乱、または絶望〜黒いドミノの中に

5 煉獄の魂

L.V.ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126(1823-24)

1.ト長調 2.ト短調 3.変ホ長調 4.ロ短調 5.ト長調 6.変ホ長調

F.シューベルト:12のレントラー D790 Op171(1823)

D.ショスタコーヴィチ:アフォリズム Op.13(1927)

1.レチタティーヴォ 2.セレナード 3.夜想曲 4.エレジー 5.葬送行進曲

6.エチュード 7.死の舞踏 8.カノン 9.伝説 10.子守歌

寺嶋陸也:瞑想曲~西村朗追悼(2024)

ーーーーーー

1620年代から2020年代までの作品が並び、400年が光のように過ぎていく構成です。

今回は、寺嶋陸也さんによるトークが随所に散りばめられ、「なるほど、そうだったのか〜」と新しい発見もたくさんあり、おかげで聴き方も新鮮に。

1曲目のS.シャイト(1587-1654):イギリスの運命の女神の歌(1624出版)は1620年代の作品。一体どんな音がするのかな、と興味シンシンでしたが、寺嶋さんはなんともクリアで混じり気のない黒パンのような音をベーゼンドルファー・インペリアルから引き出し、「え!?こんな音するんだ!」と耳からウロコ!

エリザベス朝の古い歌「運命よ。我が敵よ」という歌をもとに変奏していくのですが、まずテーマを出す、というやり方ではなく、いきなり変奏、というのがその頃のスタイルだったとのこと。今でいう「カヴァー」でしょうか。

続くのは F・クープラン(1668-1733):クラヴサン曲集 第3巻 第13オルドル(1722)

クープランはルイ14世の君臨した時代のヴェルサイユ宮殿で活躍した人ですから、それはもう優雅な装飾に満ち溢れています。

寺嶋「ブルボン王家の紋章とトリル記号が似てる、ということから、まず第1曲目はそのトリル記号で埋め尽くし、王家への尊敬、忠誠を表します」


という面白い話もあり、王家という巨大権力のもとで音楽をやる大変さも垣間見えました。

まさに衣擦れやレースの音と同時に、ちょっと意地の悪い会話が聴こえてくるような音楽。平安時代の王朝もこうだったのでしょうか。

続くL.v.ベートーヴェン(1770-1827):6つのバガテル Op.126(1823)

貴族をパトロンにしながらも彼らの機嫌を取ることもなく、言うべきことを遠慮なく言い、好きに書いた小曲を集めた「バガテル集」です。「自信作だっらしい」と寺嶋さん。

寺嶋陸也さんの胸のすくような演奏により、音楽家の精神的自立の尊さを改めて感じた時間でした。

そして、F.シューベルト(1797-1828):12のレントラー D790 Op.171(1823)

苦しいことも多い庶民の楽しみは、やはり音楽とダンス。「踊るため」に書かれたレントラーが、疲れを癒すような温かい音で弾かれ、土の香りが漂いました。


寺嶋「ベートーヴェンとシューベルトは死んだ年も1年しか違わないし、同じ時代を経験していますが、世代の違い、というのは大きいです。見えているものが世代間で違う。」

なるほど。今の時代でも、団塊の世代、バブル世代、ロスジェネ世代、Z世代、同じ空気を吸っていても見えている世界が違うのと同じだなあ、と思いました。

そして、D.ショスタコーヴィチ(1906-1975):アフォリズム Op.13(1927) です。

この作品が書かれた1927年といえば、ショスタコーヴィチもまだ20歳くらいで、前衛バリバリです。スターリンの大粛清は1934年頃に始まりますし、まだ前衛が許されていたのですね。

寺嶋「それぞれに”セレナード”とか”ノクターン”とか凡庸なタイトルが付けられていますが、内容が全然違います。とてもアイロニカル

なるほど、どこが「セレナード」だよ、というオカシナ、時には暴力的と言ってもいいような曲が並び、まるで前衛演劇を見ているようです。

そして最後は寺嶋陸也さんの作品、瞑想曲~西村朗追悼(2024) でした。

2023年に惜しくも亡くなられた作曲家、西村朗氏をしのんで書かれたもので、西村氏の作品モチーフが、思い出のように使われています。

寺嶋「あと数時間で70歳のお誕生日をむかえられる、という時に亡くなられました。」

「ときには共感し、ときには反発も感じながらたくさんの話をきいた。」とプログラム・ノートに寺嶋さんご自身が書かれていらっしゃいましたが、作曲家同士、どんなお話をされたのでしょうね。

次世代へ繋いでいくような余韻を残して、コンサートは幕を閉じました。

来年も、もちろん寺嶋陸也さんの公演あります!

どうぞお楽しみに!

こちらも合わせてお読みください。

寺嶋陸也さんのコンサートについてのブログ

2025年5月16日・記


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