by 廻 由美子

【新しい耳】@B-tech Japan 2026
〜モダン・タイムス〜
2026年
3月1日(日)
15:30開演(15:00開場)
山田剛史 (ピアノ)
〜響きの鏡〜
反転し、呼応する音。
バッハとヒンデミット、2つの時代の音が反射し、戯れ、お互いを映し出す。
J.S.バッハ :イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971 (1735)
P.ヒンデミット :ピアノ音楽 Op.37 第1部 「練習曲:3つの小品」(1925)
P.ヒンデミット : ルードゥス・トナリス(音の戯れ) (1942)
「モダン・タイムス」シリーズ初回を飾る山田剛史さんの組んだプログラムは、ご覧のようにバッハとヒンデミットです。
今日は山田さんの演奏するヒンデミット「ルードゥス・トナリス」についてお話していきたいと思います。
といっても楽曲分析ではなく、あくまでもふんわりですが。
ヒンデミット(1895~1963)、と聞くとどういうイメージがあるでしょう。
20世紀前半のドイツを代表する作曲家。
作品が「退廃音楽」としてナチスに睨まれ、亡命を余儀なくされた。
ヴィオラ奏者としても、理論家としても名高い。
ドイツ、理論家、なんて言葉が並ぶとちょっとカタい感じも受けるかもしれません。
私自身も子供時代、ソルフェージュの先生が「さあ、ヒンデミットをやるよ!」というと、みんなで「ヤダ〜!!!」と大合唱したものでした。
なぜって、難しいからです。いや、正確に言えば、難しいと思ってしまっていたからです。
歌いながらリズムを手で叩く、というもので、「え?それって楽しいじゃん、なんでイヤなの?」、と言われそうですが、、、。
「イッチ、ニイ、サン、ハイッ!」、というアップビート感なしの号令、しかも全員机に向かって腰掛けたままやる、という方式で、「ノリ」や「グルーヴ」の感覚は無し。
もしも、立って踊りながらやれば「ノリ」や「イイ感じのグルーヴ」も生まれ、みんなもヒンデミット・ファンになったかもしれないのに、やはり「勉強感」が先に立つのは音楽にとって良くないですね。
大人になってからはヒンデミットのアブナイ感じのオペラを聴いたり、面白いピアノ曲を聴いたりして、少しずつ「好き」の扉が開いてきたのですが、その扉をサーッと開けてくれたのが山田剛史さんの演奏する「ルードゥス・トナリス」です。
その一部が公開されていますので、下の動画コーナーに貼っておきます。
キース・ジャレットのような冴わたる音で始まる山田さんの「ルードゥス・トナリス」の演奏には、それこそ立ち上がって踊りたくなります。なぜならば、音が立ち上がって踊っているからです。
今回ご紹介している動画は「ルードゥス・トナリス」の一部となりますが、私は配信時に全部聴いて、次々と繰り出される「場面」を、まるで映画や演劇や、あるいはパントマイムやストリート芸を観るように楽しみました。
全部通すと1時間近くかかる大作で、演奏する方はかなり大変ですが、聴き手はいろんな夜店を覗いてるみたいに楽しい、というわけです。
もともと題名の「ルードゥス・トナリス」というのは「音の戯れ」、要するに「音の遊び」という意味で、どうやって戯れて遊ぶか、が焦点となります。
遊び、というのはダラダラすることではなく、大変テンションが高く、大変真剣なものですね。
赤ちゃんが真剣に玉と戯れている、幼稚園児が真剣に砂山を作っている、小学生がワケのわからないお絵描きをしている、そんなときは真剣オーラが出まくりです。
源氏物語でも楽器演奏のことを「琴を遊ぶ」「笛を遊ぶ」などと言ってるようですし、昔から音楽をするのは、「遊ぶ」、ということなのですね。
ヒンデミットにとっても「ルードゥス・トナリス」の創作は真剣な「遊び」であったことでしょう。
この作品は1942年にアメリカで書かれています。
ドイツ時代の若い彼は、映画館、カフェ、ダンスホールから、オーケストラや弦楽四重奏まで、ありとあらゆる活発な活動をしていましたし、作曲家としてもバリバリで、国際的にも有名になっていました。
しかし、1933年に、ナチスが政権を握り、ヒトラーがドイツの首相になります。
ナチスによって恐ろしく変わっていく祖国。ドイツ人だからといって安全なわけではありません。少しでも進歩的な考えは危険視されていきます。
詩人、画家、音楽家、作家、映画人など、あらゆる芸術家が「進歩的なもの書いたら、どうなるか、アーン、わかってるよな」と、ナチスから鋭いナイフを突きつけられたような状態だったでしょう。
逆に言えば、ヒトラーは(ヒトラーに限らず独裁者はみんなそうですが)、芸術が人々に与える影響力の凄さをわかっていた、とも言えます。
真に新しい芸術で人々が「気づき」を得てしまう、「生命力」を得てしまう、「心の自由」を知ってしまう、そんなの絶対ダメだ、ということでしょうか。ヘンに芸術の本質をわかっているところが困ります。
1934年、ヒンデミットの新作「画家マティス」が、フルトヴェングラーによって初演されました。
初演は大成功を収めましたが、ヒンデミットはナチスに「退廃音楽」の烙印を押され、発表の機会をすべて奪われてしまいます。
もはや亡命するしかなかったヒンデミット。
彼は1938年にスイスへ移り、そして1940年にアメリカへ渡ります、
1940年代、祖国から遠く離れたアメリカで、変わり果てていく、そして崩壊していく故郷をどう見ていたのでしょう。
でも、少なくとも「音楽」という「遊び」に熱中でき、それによって救われていたのでは、と思います。
以前のブログ「林光・ホランダー&映画」に書いたことがあるのですが、フランスの詩人、ジャン・コクトーは「ユーモアを失わないように戦うんだ。ユーモアの欠如は愚の骨頂だよ」と言ったそうです。
キャバレー作曲家のホランダーは、ナチスがだんだんと台頭してきた1931年に、ベルリンのキャバレーでヒトラーを大胆に風刺するショーを上演しています。
「キャバレーとは、鉄でできた凶暴な者たちを、洗練された言葉や音楽という、唯一の綺麗な武器で退治できる戦場」
これはホランダーの言葉です。(ブログ、フレデリック・ホランダー<カバレット>)
やはり「遊び」は人生の強い武器、ですね。
3月1日(日)15:30より、山田剛史〜響きの鏡〜
真剣な「遊び」の空間に、遊びに来てください。
関連ブログ
【動画コーナー】
山田剛史
ヒンデミット:「ルードゥス・トナリス」より
(福間洸太朗チャンネル)
「新しい耳」全公演会場
東京都港区虎ノ門1-1-3
磯村ビル1F
【新しい耳】2026 モダン・タイムス
4月以降の公演
vol.21 4月25日(土)谷口知聡(ピアノ)
〜輝く迷宮〜
音と光が揺らぎ、迷宮を抜け、時代を超えて響き渡る。
小倉美春、シェルシ、バルトーク、音楽が紡ぐ光の軌跡
小倉美春:Rifrazione (2024)
G.シェルシ:ピアノのためのプレュード第二巻 (1930/1940)より 第13番、第14番、第15番、第18番、第23番、第24番
B.バルトーク:戸外にて Sz.81 (1926)
vol.22 5月16日(土)寺嶋陸也 (ピアノ)
〜記憶する音〜
音は時代を記憶し、決して忘れさせない。激動と闇を超え、音が、記憶を語り出す。
M. ファリャ:デュカスの墓のために (1935)
F.モンポウ:前奏曲第5番 (1930) ,前奏曲第6番「左手のために」(1930)
前奏曲第7番「星の棕櫚」(1931)
H.アイスラー:子どものためのピアノ曲集(1935)Ⅰ.主題と変奏 Ⅱ.7つのピアノ曲集
ソナチネ「グラドゥス・アド・パルナスム」作品44(1934)
吉田隆子:カノーネ (1931)
譚歌 (1937)
清瀬保二:琉球舞踊(1936)
B.バルトーク:6つのブルガリア・リズムのダンス(「ミクロコスモス」第6巻より)(1937~8)
vol.23 8月9日(日)サウダージ・ジャポニカ
〜パンとサーカス〜
沢田穣治(コントラバス、作曲) 伊左治直(作曲、鍵盤、鳴り物)、廻 由美子(ピアノ、アレンジ)、新美桂子(ヴォーカル、朗読)、桑鶴麻氣子(朗読)
作曲、演奏、演劇、超ジャンルのアーティストが集まって結成したユニット。オリジナル、ラテン、ジャズ、歌謡、クラシック、そして詩の朗読による音絵巻!
ワクワク感と物悲しさ、楽しさと怖さの同居するサーカスの世界を、音楽と詩で綴る異空間!プログラムは後日公開!
vol.24 10月11日(日) 松﨑愛(ピアノ)
〜光への帰還〜
破壊と沈黙を経て、音楽は常に光を求めて立ち上がる。
ヒンデミット、シュルホフ、リゲティ、希望への帰還。
E.シュルホフ: ホットミュージック(10のシンコペーション・エチュード)WV90 (1928)
P.ヒンデミット: 組曲「1922年」 Op.26 (1922)
G.リゲティ: ムジカ・リチェルカータ (1951)
vol.25 11月28日(土)松平敬バリトン)x中川賢一(ピアノ)x小倉美春(作曲、ピアノ)
〜モダン・ソングス〜
失われ、消された声は、音となってよみがえる。
小倉美春による新たな編曲による「ナポレオンへのオード」、そして数々の
作曲家たちとともに紡ぐ、現代(いま)の、”モダン・ソングス”!
A.シェーンベルク(小倉美春編曲):ナポレオンへの頌歌
小倉美春:《光の破片》〜ピアノ連弾のための
山根明季子:水玉コレクションNo.02
高橋悠治:ちんろろきしし
間宮芳生:カニツンツン
稲森安太己:ワルツをひとりで口ずさむ
福士則夫:それなあに?
I.クセナキス:モーリスのために
藤倉大:世界にあてた私の手紙(日本語版)
G.アペルギス:生理学的な笑い
I.ストラヴィンスキー:ふくろうと子猫ちゃん
鋭いエッジを効かせたプログラム、崖っぷちギリギリでありながらもそれを楽しみ、また、聴き手に楽しんでいただくのが楽しい、というツワモノがズラリと揃っています。
どの回も聴き逃せません!
B-tech Japanの東京スタジオ、という厳選席数の空間、常に最高のコンディションで弾き手をインスパイアするベーゼンドルファー・インペリアル、間近に演奏を聴くことができる贅沢さ、どうぞ十分にご堪能ください。
2026年1月14日・記 |


