by 廻 由美子

2025年 7/20(日)15:30開演(15:00開場)
曺佳愛(チョウ・カエ・pf)
〜アジアを繋ぐ次世代2020s〜
ウンスク・チン:Six Piano Etudes No.1“ In C ”(1999)
尹伊桑:Interludium A for Piano (1982)
戸島美喜夫 :ヴェトナムの子守唄 (1980)
高橋悠治:光州1980年5月 ~倒れた者への祈祷~ (1980)
Hope Lee:entends, entends la passé qui marche...(1992)
前回のメルマガでは「高橋悠治〜光州〜」について書きましたが、今回は高橋悠治氏の友人でもあった戸島美喜夫(1937〜2020)の作品「ヴェトナムの子守唄」についてです。
※ 高橋悠治「光州」は今回はスライドは上映せず、ピアノソロとなります。
富山妙子オフィシャルサイトに「光州」の作品が公開されていますので、そちらをご覧になると、当日の演奏を聴くのもまた格別かと思います。
戸島美喜夫さんは惜しくも2020年に亡くなられました。お会いする前から作品から感じる「たちのぼる色気」にマイっていた廻ですが、実際にお会いした戸島さんは、音から感じるのと同じく、なんとも言えない色気があり、ゆっくりとくゆらす煙草の煙まで昔のLPジャケ写のようで素敵!と感じいったものでした。
高橋悠治さんとは1960年代からのお友達で、タイに一緒に行ったりしていたそうです。
高橋悠治さんの弾く戸島美喜夫作品集「冬のロンド」というCDもリリースされています。
その中には今回演奏される「ヴェトナムの子守唄」も入っています!

色気、と書きましたが、いわゆる「官能」というのとも違います。本当に音に「色」があるんです。それもどこか夢の中で見たことのあるような、夢の中でしか見ることのできないような色、そして香り。
「ヴェトナムの子守唄」は1980年に書かれています。ヴェトナム戦争終結からわずか5年後です。
戦争の写真報道で世界を震撼させた戦争被害の子供たち、それは強烈に世界中の記憶に残っているわけですが、戸島美喜夫の音楽は、空中に漂っている子供たちの歌声、遊び声、笑い声、お喋り、などを耳を澄ませて聴き取っているように感じます。
それはキラキラと輝いては消え、フワリと浮かんでは消え、シュワシュワと泡立っては消えていきます。儚く、脆く、決して手にさわれないもの、でも動きが感じられ、思わず触れたくなるもの、限りなく愛しいそのしぐさ。
「ヴェトナムの子守唄」を聴いていると、失ったものの大切さを思い知ります。
曺佳愛さんは「弾きながら、私はまるでシャボン玉をそっと操るような感覚になる。」と書いています。
では曺佳愛さんの「ヴェトナムの子守唄」への文章を、どうぞお読みください・
戸島美喜夫
《ヴェトナムの子守歌》(1980)
この作品は、今回のプログラムの中でひときわ異彩を放つ存在だ。
どこか懐かしく、温かく、静かに寄り添ってくるような音楽。
私にとってこの作品は、アジアの大地や風、香り、空気といった自然の情景を、ピアノを通じて体感させてくれる特別なひとときである。
戸島美喜夫は、日本という枠を越え、東南アジアの文化や自然に深く感応しながら作品を生み出した作曲家だと感じる。
この《ヴェトナムの子守歌》には、単なる異国情緒ではなく、その土地の風土に根差した生きた感覚が息づいている。音楽からは、湿度を帯びた空気や、ゆっくりと流れる時間の感触が漂い、まるで船に揺られながらアジアの森林や村々を旅しているような気分になる。
演奏しているときの感覚は、「音を紡ぐ」というよりも「手仕事をしている」ような、まるで織物のように、一本の糸を丁寧に撚っていく手仕事のような時間——私は、音楽というより“作業”に近い身体感覚でこの作品と向き合っている。
音のひとつひとつが炭酸の泡のように繊細で、消えていく寸前まで丁寧に見守る必要がある。弾きながら、私はまるでシャボン玉をそっと操るような感覚になる。
この音楽には、大きなドラマや叫びはないけれど、そこにあるのは確かな生命感と、穏やかな祈りだ。
この作品は、歴史や苦悩といったテーマから少し離れ、聴く人の心をやさしく撫でるような力を持っている。耳と心をゆっくりと解きほぐし、次の音楽へと橋渡しをしてくれる、そんな存在として私の中にある。
曺 佳愛(ピアノ) チョウ・カエ Kae Cho
桐朋学園大学 ピアノ科を卒業し、現在 同大学院修士課程1年に在学中。
第24回 万里の長城杯国際音楽コンクール ピアノ部門 第3位。ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクールin Tokyo2023 Special mention賞の受賞をはじめ、
これまで多数の賞を受賞。2022年に桐朋学園大学”春のオープンキャンパス”に出演。同年より、世界の社会問題と関連するチャリティーコンサートを始め、各種演奏会を年に数回主宰及び出演し、これまで動員数300名以上をもたらした。調布国際音楽祭2023に出演。各地音楽祭に、ピアノクインテット(ピアノ五重奏)のメンバーとして出演。現在東京を拠点にソロ、室内楽、現代音楽のアンサンブルや演奏、
また音楽解説(プログラムノート)の執筆など、多岐にわたる活動を行う。
2024年度 韓国教育財団奨学生。これまで、ヴィクトア・トイフルマイヤー、ウラジミール・トロップの各氏のセミナーを受講。現在、廻 由美子氏に師事。
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2025年6月20日・記
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