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by 廻 由美子

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2025年 8/2(土) 15:30開演(15:00開場)

大瀧拓哉(Takuya Otaki ピアノ)

~バルトーク・ルネサンス1920s~

<全 B.バルトーク・プログラム>

15のハンガリー農民の歌 (1914/1918)

ミクロコスモス(1926 ~39) 第3巻~第6巻より

戸外にて(1926)

ピアノソナタ(1926)


前回のブログ(こちらをクリック!)では大瀧拓哉さんによる「バルトークの夜」をお読みいただきました。

 

小さな虫から壮大な宇宙へ繋がるバルトークの夜は、まさにミクロコスモス

今回ももう一度掲載いたしますので、スクロールして再度お読みいただければ幸いです。

 

さて、今回演奏されるバルトーク作品は、1920年代近辺に書かれています。

どんな時代だったのか、少し見てみましょう。

 

バルトーク1881年生まれですから1920年代はまさに作曲家として脂の乗った年代というところですね。

 

しかしハンガリーそのものは大変な時期でもありました。

 

第一次世界大戦後、政治は混迷を極め、しかもトリアノン条約で領土を著しく削減されたハンガリーには不満が溢れ、右派が台頭。

 

政治的混乱、戦争、などで被害を受けるのは「戦争するぞ」と決断したエライ人ではなく、一般市民労働者農民たちです。


バルトークは大戦中も意思強固に農村に行っては民謡採集を続け、「15のハンガリー農民の歌 」を書き上げます。ここには民謡への愛と尊敬はもちろんのこと、憧れ、も感じられます。

 

音楽院でピアノや作曲を習ってきたバルトーク。もちろんバルトークは問題意識を常に持っていたので、民族音楽を研究していました。

 

でも、音楽院の建物から出て、農村に入り、農民たちの歌を目の前で聴いた時の感動はどんなだったでしょう。収穫の歌、死者のためにうたう歌、酔っぱらってうたう歌。

 

なんと自由に、なんと規則に縛られずに、なんと自然に彼らは歌うのだろう!

 

これを五線譜に書いて良いものか、「ミ」でも「ファ」でもない微妙な音程はどうしたら良いだろう。リズムは?この、言葉と一緒になった、身振りのようなリズムは今までの記譜法で書けるのか?


と思ったのではないか、というのはあくまで私が勝手に考えたことです。でも演奏家の根幹をなすのは想像力なので、お許しください。

 

さて、「うた」とくれば「踊り」です。「踊り」に太鼓は欠かせません。

 

バルトークは、ピアノは打楽器の一種である、と言って、ピアノに新たな可能性を見出しました。

 

この「ピアノは打楽器の仲間」という考え方は、ずいぶん長い間、ピアノに携わる人々から「NG」を喰らってきました。

 

打楽器に対するイメージが違うのかなあ、と打楽器好きの私などは不思議に思うのですが。

 

あらゆる民族は多様なパーカッションを持っていますし、皮もの、金もの、木もの、それらを組み合わせたもの、形も様々、音色は星の数ほど、響きもさまざまで、あらゆるリズムが出せるし、色とりどりの音色が出るし、ラヴェルなど打楽器でオーケストラに金銀の魔法の粉を撒いていますね。


ということで、バルトークはピアノに新しい息吹を吹き込みました。

 

新しい、というか、太古に戻ったというか、音を出す行為の嬉しさ、リズムの喜び、踊りだしたい欲求、要するにピアノで原始に戻れる嬉しさがあるのです。

 

ジャズロックのミュージシャンたちにバルトーク・ファンが多いのも頷けます。

 

「ミクロコスモス」「ピアノソナタ」「戸外にて」、次々と繰り広げられる祝祭、生命の躍動、色彩!これこそバルトークの真骨頂でしょう!

 

大瀧拓哉さんのバルトーク、どうぞお楽しみに!

 

関連ブログ

 

↓大瀧拓哉さんのインフォ。

 

公式HP

 

CDリリース


<バルトークの夜>

大瀧拓哉

 

“夜”をイメージさせる音楽といえば、どのような曲が思い浮かぶでしょうか。

 

ショパンのノクターン(夜想曲)やドビュッシーの《月の光》をはじめとして、美しいメロディに繊細なハーモニーが添えられた、幻想的でロマンティックな作品が多く挙げられると思います。

 

しかし、“夜”の姿は本当にそれだけなのでしょうか?

 

バルトークの膨大な作品群の中でも、《戸外にて》第4曲「夜の音楽」は(少なくとも僕にとって)特別に強烈なインパクトを持つ作品です。

 

冒頭からひっそりと鳴り続ける不協和音断片的なモチーフ。ようやく現れるメロディも不気味で落ち着かず、やがて唐突に原始的な踊りが現れます。

 

先ほど挙げたような「ロマンティックでうっとりする夜」の要素は、ここには一切存在しません。


夜には、夜にしか活動しない動物や虫がいて、また暗闇の中だからこそ感じられる恐怖緊張感があります。19世紀ヨーロッパ的な価値観からすれば、それらは“美”の対象とは見なされなかったかもしれません。

 

しかし人間もまた自然の一部であり、ほかの動物と同じ「生き物」です。

 

バルトークは、そうした“自然の声”に耳を傾けることで、これまでとは異なる新たな“美しさ”を見出しました。

 

それは、私たちに価値観の転換を迫るような、強烈なインパクトをもたらします。

 

バルトークは、作曲家・ピアニスト・民族音楽学者・教育者として驚くべき業績を残し、しかもそれぞれの活動が互いに深く結びついています。


今回のコンサートではハンガリーでの民謡採集活動の大きな成果として生まれた、民族的要素の強い傑作《15のハンガリー農民の歌》。さらには《ミクロコスモス》からの抜粋を交えて「バルトークらしさ」を再確認していただきます。

 

全6巻153曲からなる《ミクロコスモス》は、もともと教育的な目的で書かれたものですが、その中にはバルトークの音楽の本質凝縮されています。

 

描写的、理論的、民族的…それぞれの曲が明確な意図をもって書かれており、バルトークを理解するための重要な手がかりとなる作品集です。

 

それらを経て、バルトークの代表作とも言うべき1920年代の二つの傑作をお聴きいただきます。

 

ひとつは、「夜の音楽」を含む、内省的かつ描写性の強い《戸外にて》

 

もうひとつは、ソナタという古典的な枠組みにバルトークのあらゆる要素を集大成のように詰め込んだ、非常に力強い《ピアノ・ソナタ》

 

この対照的な二作品を通して、バルトークの、また1920年代ピアノ音楽の核心に触れていただければ幸いです。


大瀧拓哉(ピアノ) Takuya Otaki

愛知県立芸術大学、シュトゥットガルト音楽演劇大学、アンサンブル モデルン・アカデミー、パリ国立高等音楽院で学ぶ。2016年オルレアン国際ピアノコンクールで優勝。その後フランスを中心に多くのリサイタルや音楽祭に出演。アンサンブル奏者としてもヨーロッパ各地でコンサートを行う。2017年にフランスでデビューCD“ベラ・バルトークとヴィルトゥオージティ”をリリース。2024年に“ジェフスキ「不屈の民」変奏曲/ノース・アメリカン・バラード全6曲”をリリースし、各誌にて高い評価を得ている。現在東京を拠点にソロ、室内楽、協奏曲のソリスト、現代音楽のアンサンブルや初演など、多岐にわたる活動を行う。

 

廻 由美子

2025年7月24日・記 

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