by廻 由美子
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前回のブログ「あと2回のシリーズについて」はこちらをご覧ください。
11月24日(日)、工藤あかねと廻 由美子による公演が行われました。
2人によるシェーンベルク・シリーズは5月に続き2回目です。
5月の〜背徳と官能〜では、「月に憑かれたピエロ」ヴォーカルとピアノ版を2人で上演しましたが(ブログ「公演レポート」をご覧ください)、今回はご覧の通りのプログラム。
11月24日(日):〜失われた楽園を求めて〜
出演:工藤あかね(ソプラノ) x 廻 由美子(ピアノ)
A.ツェムリンスキー:12の歌曲 作品27より8番〜12番(1937〜38)
E.シュルホフ:5つの歌 作品32(1919)
A. シェーンベルク:「架空庭園の書」(1908〜1909)
なかなかシブいプログラムですし、初めて聴く方も多いであろうと、2人でトークしながら進めていきました。
ツェムリンスキーでは、ユダヤ人である彼には厳しい時代になったことや、いくつかの曲は歌詞を黒人詩からとっていること、1920年代アメリカでのムーヴメント、ハーレム・ルネサンスにも触れ、それがドイツにも飛び火したことなどでツェムリンスキーも黒人詩を知ったのでは、という話など、いろいろ膨らみました。
続くシュルホフでは、この「5つの歌」が作曲された1919年という年に触れ、シュルホフが第一次世界大戦の前線で戦っていたことなど、背景をトーク。
また、第一次世界大戦では治療としてモルヒネが使われていたことや、コカインは恐怖を和らげるだけでなく、寝ずに戦わせるためにも使われていたことなど、戦争と薬物についても触れ、シュルホフも負傷したし、神経症にも悩ませられていたということなので、そこら辺が作品に影響しているのかも、という話も。
工藤・廻「私たちは学者ではないので、あれこれ妄想して曲のイメージを掴んでいくんです」
なにしろシュルホフの「5つの歌」は、ずっと霧の中をユラユラ歩いているような曲ばかりで、歌詞も意味があるようなないような、でも痛切な孤独感だけは伝わってくる、という曲ばかりなのです。
工藤「お聴きになりながら眠ってしまうかも」
廻「でも眠ると悪夢を見るかも」
などと言いながら始めました。お客様の集中度が身体に伝わってくるようで、音楽は「痛み」を共有することでもあるのだなあ、と実感した瞬間でした。
いよいよコンサートのメインであるシェーンベルク「架空庭園の書」。
こちらのブログ「シェーンベルクと周りの人たち」でも紹介した「相関図」をB-techのスタッフさんが綺麗に台紙に貼ってくれて、それを見せながらトーク。パワポじゃないところも楽しい。
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まったく、狭い世界で渦巻く不倫関係ですね。
妻と友人が愛人関係になり、友人は自殺、妻は戻ってきたとはいえ、一時は2人に愛の逃避行までされたシェーンベルクです。
相当傷ついたに違いないですが、
廻「妻が帰ってきた時のシェーンベルクの顔が想像つきますね」
工藤「あんまり表情に出さなかったのでは」
そんなことがあったにも関わらず、その直後に作られた「架空庭園の書」は魔法のような新しい響き、官能性に満ちています。
カーッとくるのではなく、夜に咲く匂いの強い花にめまいを起こし、官能的幻影を見るのだけれど、気がつけば荒涼とした景色、絶望的な孤独感、みたいな作品で、リハーサルでも毎回、シェーンベルクの凄まじい天才性を目の前にして、2人で唖然とすることもしばしば。
脳も痺れさせるし、皮膚感覚も刺激される、という傑作で、本番でも演奏しながらもだんだん会場の温度が上がっていったような気がしました。
工藤あかねさんの語るような歌がものすごく素敵で、花が開くような、囁くような、独り呟くような、希求するような、嘆くような、ため息をつくような、まだまだ言葉では書ききれないような歌い方で、作品の魅力が匂い立ち、香りに包まれながら演奏していました。
ご来場の皆さま、ありがとうございました!
2024年11月29日・記
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