by 廻 由美子
前回の「F.ホランダーとカバレット!」はこちら
さて、7月6日のHISASHI with廻 由美子〜カバレット・ソング〜
フレデリック・ホランダーのソングに続いて歌われるのは林光の「ソング」です。
林光についてはこちらのブログで深掘りしていますので、ぜひご覧ください。
その中でも書いていますが、「ソング」というのはもちろん「歌」のことですが、林光は尊敬していたブレヒトの影響もあり、劇中歌、集会でうたう歌、などをソング、と呼んでいたようです。
劇中の状況に観客を引きずり込むよりも、そこに歌を入れることで物語に対する客観性や活気を生じさせる、というブレヒトの手法は、「やたら深刻にしない」「わかりやすく」という林光のポリシーと共通しています。
さて、今回取り上げる林光ソングは
壁のうた
行ってしまったあんた
舟唄
動物園
祖母の子守うた
ぐるぐるまわりの歌
雨に濡れた木馬
どれも題名からしてイメージ湧きますね。
では歌詞大意と簡単な解説をお読みください。
「壁のうた」
詩:齋藤憐
見せ物小屋には 目には見えない壁がある
舞台の上ではピエロが死んで 客席では大笑い
という見せ物小屋の哀しい真実を笑いにのせて歌います。エノケンの映画風?それともフェリーニ?乞うご期待!
「行ってしまつたあんた」
詩:斎藤憐
「あんた」という響きに象徴される、ある種のうらぶれ感を見事に表した名曲。
行ってしまったあんたには、これからずっと朝がない
待ってたアタシには、来なくてもいい朝がくる
ヒタヒタと静かな、冷たい朝の空気をアレンジに込めてみました。
「舟唄」
詩:佐藤信
自由劇場、劇団黒テントの創立者として、演出家として、劇場監督として名高い佐藤信による詩。
男:遠いところへ行きたくないかい?
女:あたしはここにいたいのよ
男と女のすれ違い。舟を漕いでも同じこと
舟を漕ぐリズムでアレンジ。エンヤートット。
「動物園」
詩:佐藤信
日曜日は楽しく賑わう動物園
月曜日、うらぶれた動物園
ひっそりと、動物が死んでいく
弱者に思いを寄せたソングです。林光の音楽は、あくまでもエレガントで、そこが怖いです。
「祖母の子守うた」
詩:江間章子
詩人の江間章子さん(1913〜2005)は、中田喜直「夏の思い出」や、團伊玖磨「花の街」などの詩でも有名です。この祖母の子守うたは、物語風で、幻想的です。
遠い荒野を白い馬がかけてゆく
おのりなさい
見知らぬ世界に連れてってくれるでしょう
それは祖母が歌ってくれたうた
目の前に幻想的な夜が広がっていきます。民謡をイメージしてアレンジしました。
「ぐるぐるまわりの歌」
詩:長谷川四郎
詩人の長谷川四郎(1909〜1987)はブレヒトやロルカ詩集の名訳でも知られています。
村に伝わる伝説のようなこの詩は、どこかロルカを思わせます。
死んだ娘は川へ、海へ流されて、波が砂地にうちあげる。
砂に埋もれるしゃれこうべ
もぐさに揺らぐ黒髪
生きてる娘たちは笑いながら、墓をたてて去っていく
蒼白いような詩ですが、林光の音楽は客観的にぐるぐる回ります。ピアノもぐるぐる。
「雨に濡れた木馬」
詩:佐藤信
真夜中のまちを走ると、やがて朝の行き止まり。
酒もタバコも、もうありゃしない
ねむれよ、悪い子
どこかからシューベルトの子守歌が?
HISASHの鋭い感性が迸る歌と廻 由美子のピアノ・アレンジによる林光劇場、どうぞお楽しみに!
2024年5月30日・記
廻 由美子
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