by 廻 由美子

2025年 8/2(土)
大瀧拓哉(Takuya Otaki ピアノ)
~バルトーク・ルネサンス1920s~
たくさんのお客様にご来場いただき、熱気と感動の中、終了いたしました!
ありがとうございました!
<全 B.バルトーク・プログラム>
15のハンガリー農民の歌 (1914/1918)
ミクロコスモス(1926 ~39) 第3巻~第6巻より
戸外にて(1926)
ピアノソナタ(1926)
2016年、オルレアン国際ピアノコンクールで見事優勝されてから、国内外を問わず大活躍の大瀧拓哉さん。
その大瀧拓哉さんが「バルトーク・ルネサンス1920s」と題してバルトークの作品を一挙に演奏!というので、チケットは早々と完売、当日は開場前から長い列ができる、という熱気あふれる公演となりました。
ムンムンの客席に爽やかな笑顔で登場した大瀧拓哉さん、ピアノの前に座ると「バララララン!チララン!」とチンバロン(ハンガリーの民族楽器)のような魅力的な音で「15のハンガリー農民の歌」を弾き始めます。
会場の空気はいっぺんに変わり、土、草、藁、の香りが漂い出し、大瀧さんが弾き進めるにつれ、農民たちの話し声、歌う声、踊る足音、も聴こえてくるようです!
この曲は、バルトークが農村の奥深く入り込み、農民に歌ってもらったものを録音し、楽譜に書き取り、アレンジしたものです。
「歌ってもらい」と簡単に書きましたが、まず農村奥深く行くのが大変ですし、そこへ辿り着いても、都会から来た知らないオジサンになんか、「歌う?なんでだ。だいたいアンタの持ってるその機械(録音機)はなんだね?あやしいぞ」と、オイソレとは歌ってくれません。
そこはバルトークの天才的語学能力がモノを言います。数え切れないほどの語学を習得したのみならず、「方言」も習得していたバルトークは、土地の言葉で話しかけ、信頼を得て歌ってもらうことができたようです。
「作曲家、ピアニスト、民族音楽学者、教育者として、それぞれの分野で誰も到達できないような仕事をして、一体バルトークって何人いるんだろう、と思うくらいです」
とトークでの大瀧拓哉さん。
さて、次は「ミクロコスモス」から数曲を選び「教育を目的に書かれたものですが、自分なりにこだわって分類してみました(大瀧)」と3つのグループに分けて説明してくれました。
なるほど、大瀧さんが「描写的、理論的、民族的」というバルトークの意図を明確に掴んで分類したことがわかります。
演奏を聴いていると、そこには「教育を目的」という本当の意味が浮かび上がるようでした。
真の教育「想像する力」「考える力」「遊べる力」をつけるようになっていて、バルトークが教育で何を大切にしていたかが伝わってきます。
そしていよいよ大曲2つ、「戸外にて」と「ピアノソナタ」です。
「戸外」といえば「自然」「アウトドア」なわけですが、バロックから近現代まで「自然」は大きなテーマで、多くの作曲家たちも取り組んできていますよね。
しかし!
バルトークの「戸外にて」は5つの曲から成っていますが、どれもこれも、それまでの西ヨーロッパ中心のクラシック音楽とは全く違う自然が見え、未知の音が聴こえるのです。
ドン!ドン!という恐ろしい音で始まる第1曲目「笛と太鼓」は、「起きろ!何かが始まるぞ!」というメッセージのようであり、闇の空気がビリビリと引き裂かれるような不穏なエネルギーに満ちて演奏されました。
そして第2曲目の「バルカローレ」。
ショパンに代表される「愛のうた」のようなバルカローレをイメージしたらイケません。これは不気味な波で、そこに永遠に刻まれる「時」が「チッ、チッ」と現れては消えます。真っ黒い夜の海が、それこそ海のようなベーゼンドルファー・インペリアルで表現されていきます。
第3曲目の「ミュゼット」。
遠くから聴こえてくるバグパイプ、大瀧拓哉さんの演奏を聴きながら、だんだんと近づいてくる集団が見えるようでした。
そして第4曲目の「夜の音楽」。
ドビュッシーもショパンも「夜」を描かせたら超一流の天才です。しかし、バルトークの夜はなんと違うのでしょう!それについてはこちらのブログに載っている大瀧拓哉さんの文章「バルトークの夜」をお読みください。
第5曲目は「狩」
左手の執拗に続くオスティナートは、獲物を追い詰める残酷さで演奏されます。
そして時折ブッぱなす銃や、動物たちの鋭い叫びが交差し、どちらも倒れ込むようにしてこの作品は幕を閉じます。
終わった時は興奮してドキドキがなかなか止まりませんでした。
「戸外にて」を弾くだけでも凄いのですが、大曲の後に、もう1つの大曲「ピアノソナタ」が続きます。
大瀧拓哉さんは、ピアノという楽器を「リズム楽器」として極限まで使い切り、小さな鈴から大きな鐘、大中小の太鼓、世界中の打楽器の音色をピアノから引き出していきます。
太鼓に乗って響く鋭い笛の音、祈り、そして狂気に満ちた笑い声まで描き切っているこの作品は、普段は無口な農民たちがどれだけ爆発的なものを持っているか、「祭り」と「暴動」のギリギリのライン、という計り知れないエナジーを感じさせました。
終演後も興奮冷めやらないお客様がB-tech Japanのロビーで大瀧拓哉さんを囲んでご歓談、皆さんこの躍動する音楽空間から去りがたい雰囲気でした。
素晴らしい演奏をありがとうございました!

関連ブログ
↓大瀧拓哉さんのインフォ。
公式HP
CDリリース
大瀧拓哉(ピアノ) Takuya Otaki
愛知県立芸術大学、シュトゥットガルト音楽演劇大学、アンサンブル モデルン・アカデミー、パリ国立高等音楽院で学ぶ。2016年オルレアン国際ピアノコンクールで優勝。その後フランスを中心に多くのリサイタルや音楽祭に出演。アンサンブル奏者としてもヨーロッパ各地でコンサートを行う。2017年にフランスでデビューCD“ベラ・バルトークとヴィルトゥオージティ”をリリース。2024年に“ジェフスキ「不屈の民」変奏曲/ノース・アメリカン・バラード全6曲”をリリースし、各誌にて高い評価を得ている。現在東京を拠点にソロ、室内楽、協奏曲のソリスト、現代音楽のアンサンブルや初演など、多岐にわたる活動を行う。
2025年8月7日・記 |


