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曺佳愛(チョウ・カエ)公演レポート

  • megurin37
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分
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さて、7月に行われた公演の様子をお伝えしたいと思います。

2025年 7/20(日)

曺佳愛(チョウ・カエ・pf)

〜アジアを繋ぐ次世代2020s〜

ウンスク・チン:Six Piano Etudes No.1“ In C ”(1999)

尹伊桑:Interludium A for Piano (1982)

戸島美喜夫 :ヴェトナムの子守唄 (1980)

高橋悠治:光州1980年5月 ~倒れた者への祈祷~ (1980)

Hope Lee:entends, entends la passé qui marche...(1992)

まだ桐朋学園大学の大学院で学ぶ若きピアニストである曺佳愛(チョウ・カエ)さんと、そのプログラムについては何度か書いてまいりました。


下に関連ブログとして貼ってありますのでぜひご覧ください。

さて、いよいよ本番!

上の写真のようにスッキリとしたファッションで登場した曺(チョウ)さん、冒頭から冷たい湖の氷がパーン!と割れるような音で始まるウンスク・チンのSix Piano Etudes No.1“ In C ”でコンサートは始まりました。


透明感あふれる光の乱舞が目もあやに繰り広げられます。「熱い氷」ともいうのでしょうか、冷たいような熱いような体感で、聴き手もすっかりウンスク・チンの世界へ引き込まれていきます。

実は相当の難曲であるこのエチュードを冒頭に持ってくるのはとても勇気のいることだったと思いますが、「自分と同じく韓国にルーツを持ち、しかも女性。大作曲家は殆ど男性、というのに違和感を感じていたので、彼女を見つけたときは是非弾いてみたいと思った」という曺佳愛(チョウ・カエ)さん。

最初の「パーン!」と氷を割るような音は、同時に「ガラスの天井」を割る音だったのかもしれません。

続いてはウンスク・チンよりも40歳以上年上にあたる尹伊桑(ユン・イサン)の作品 Interludium A for Piano (1982) です。

「ユン・イサンは、一時は死刑宣告まで受け、拷問を受けるなど大変な苦しみを与えられ、死刑は世界中の名だたる音楽家たちの嘆願で撤回されたものの、亡命して西ベルリンに住むことを余儀なくされた人」と説明。

「この作品は晩年のほうに書かれているので、さまざまな彼の人生経験が折り重なり、うねりとなっているけれど、そこには浄化に向かっていくものがみえる」と、独自の視点から作品を語りました。

激しいけれど、どこか透明恐ろしいけれど、どこか悲しく、物凄く速い動きの中にゆったりした流れがあり、鋭い、刺すような痛みの中にフッと一瞬聴こえてくる祖国の歌、などが余すところなく表現されました。

続いての戸島美喜夫 「ヴェトナムの子守唄」については「とても美しい曲なのに、自分はヴェトナム戦争の写真 ”ナパーム弾の少女” を思い出す。」と語りました。

戦争がなければ、この子守唄のような優しい笑い声や歌声、遊び声を出して遊んでいたであろう子供たち、その美しい声が竹細工を編むように紡がれていきます。

そしていよいよ高橋悠治「光州1980年5月 ~倒れた者への祈祷~」

いよいよ、と言ったのは、この「光州」に出会ったことで彼女は今回のプログラムを組み立てることになったからです。

「最初は何も知らなくて譜読みをしたのに、身体も頭も痛くなった」という曺さん。

そこから調べ始め、昨年韓国に行った際、光州を訪ねるまでに入り込みました。

「光州の人たちは、民主化を求める若い学生たちを含む市民が、戒厳軍に大量に殺された『光州事件』の記憶を絶対に消さないようにしています。事件で傷を受けた人はその傷を見せて話し、次世代へ繋いでいます。」

と語る曺佳愛さん。話は光州事件を描いた2つの作品、昨年のノーベル文学賞作家、ハン・ガン著「少年が来る」、そして大ヒット映画「タクシー運転手」(チャン・フン監督)にも及びました。

高橋悠治の「光州」は、画家の富山妙子氏の画像のスライドと共に上演されるように作られているのですが、画も音楽もそれぞれが独立して強く、それぞれに発信力があり、

音楽だけで演奏されたり、画だけ見る、などどちらも痛みをビリビリと伝えてきます。

曺佳愛(チョウ・カエ)さんは高橋悠治氏に直接会って、創作過程のお話を聞いてきました。「この画の時にこの音楽」という情報をいただくことができたので、それをもとに自分で楽譜を作った、というのを見せてもらったらこういうふうになっていました。


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これが何ページも続いていて、とても見応えがあり、こういう楽譜が出版されればいいのに、と思ったくらいです。

演奏が始まると、戒厳令、軍の足音、銃撃、嘆き、連帯、など次々と現れ、まるで映画を見ているよう。

最後は「鳥」をうたう韓国の子供の歌があらわれ、哀しく消えてゆきます。

昨年(2024年)の非常戒厳の際、「2度とあの悲劇は起こすまい」と市民たちがどれだけ頑張ったかを思い出しました。

そして最後は台湾=カナダのホープ・リーの作品entends, entends la passé qui marche...(聴こえる、聴こえる、過去が歩いているのが...)です!

この作品はスピーカーからのサウンドとアコースティック・ピアノの組み合わせなので、サウンド・ファイルご担当の野中正行さん(響き工芸)がスタンバイ!


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足踏みオルガンみたいな台とコンパクトな機材、癒されますね。

この機材で野中さんは本当にクリアで美しく、深く、奥行きがあり、身体に響くという音を出すのです。

この作品演奏に際し、曺佳愛さんは直接カナダに住むホープ・リーさんとやりとりをすることができました。

曺「この作品は、万里の長城の建設のため強制的に連行された夫が帰ってこないので、妻が現場まで訪ねて行ったら夫はもう死んで壁の中に埋められていた。彼女があまりに泣くので壁が崩れで夫の骨が現れる、という伝説にインスパイアされたものです。」

「作品はその伝説を元に、もっと宇宙的なものとなっています。権力の横暴や、愛の深さなど普遍的テーマで、過去、現在、未来のスピリットが交差しています」

ベーゼンドルファー・インペリアルを隅々まで使い、鳴らし、スピーカーから流れてくるスピリチュアルな波動と共振し、聴き合い、語り合い、太古へ、そして未来へ還り、コンサートは幕を閉じました。


どの曲も初めて、しかもアジアの作曲家は初めて、という方も多かったかもしれませんが、驚くべき集中力で聴いてくださって、本当にありがとうございました!

廻 由美子

2025年7月31日・記 

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