テッセラ音楽祭・第25回「新しい耳」
【伊左治直・個展 〜黒白城の宴〜】
Pamphlet
テッセラ音楽祭・第25回 「新しい耳」 第2夜 2019年 11月2日(土) 16:00開演
【伊左治直・個展 〜黒白城の宴〜】
Program
☆熱帯伯爵 Tropical Count
Guitar : 大坪純平 Junpei Ohtsubo
☆ビリバとバンレイシ Biriba and Sweetsop
Piano : 高橋悠治 Yuji Takahashi /Percussion : 伊左治直 Sunao isaji
☆虹の定理 Teoria del arco iris
Piano : 廻 由美子 Yumiko Meguri / Reading 高橋悠治 Yuji Takahashi
☆夜の黄金 Noche Dorada
Guitar :大坪純平 Junpei Ohtsubo
☆機関二人猩々(からくりのににんしょうじょう)三軒茶屋編
Twins”Shōjō”-Sangenjyaya Edition (詩を下に掲載)
Piano 4-hands:廻由美子, 高橋悠治 Yumiko Meguri and Yuji takahashi
The words by 新美桂子Keiko Niimi
☆海獣天国 Marine mammal Paradaise
Piano:廻由美子
☆コモノノクニ物語集より
The Collection of Miniature Land “Comonono-Kuni” Stories No.4,2,7
toy piano:廻由美子 Percussion : 伊左治直
☆コモノノクニ物語集・特別篇「黒白城の宴」
Special edition[Feast of Black on White Castle]
Guitar:大坪純平 Toy piano:廻由美子 Percussion : 伊左治直
機関二人猩々(からくりのににんしょうじょう)三軒茶屋編 (新美桂子)
雨乞い、五穀豊穣、商売繁盛の御利益を得る為、
ここに参詣に向かう者たちの往来で賑わう、三軒の茶屋があった。
ある夜 お告げの夢を見て、その地で酒を売り始めた私は、
いつしか財を成し、魅惑の飲み屋街を築き上げた。
バラックの群れに 赤提灯
闇市(やみいち)の名残 三角地帯
そこに度々現れる、「猩々」と名乗る者がいた。
何杯飲んでも、顔色ひとつ変えない底なし上戸である。
浮世離れした風貌、異様な倍音を含む声、
しかしながら不思議と人懐こい、奇妙で無邪気な呑兵衛だ。
影をたたえる盃を傾け、今宵もその常連客を待ってみるとしよう。
なみなみ盃に 菊水を注げば
映る我が身も 老いることはない
浮かびくる月も 酒のお供にぴったりだ
客人「猩々」のお出ましだ。酒ならたっぷりある。
まずは酒のその徳を、大いに語って聞かせやしょう。
酒は百薬の長。お正月にお屠蘇、三月弥生の頃は桃酒、五月皐月(さつき)には菖蒲酒。
七百歳の仙人・彭祖(ほうそ)が呑んでいたのは菊酒ときた。
さらに葡萄酒、養命酒、保命酒、薩摩の国の泡盛、次から次へと飲み干して、
我らも長寿を願い、いざや酒を酌み交わそうじゃないか。
ゆうらく通りに三茶3番街、続くエコー仲見世商店街、
踊りながら渡り歩き、ハシゴ酒も、これで三軒目。
お囃子(はやし)には鈴虫の声、雨粒の屋根に弾ける音は鼓、
夜風に寄り添い、秋の調べに身を任せましょう。
友の証に授けよう。尽きることのない永遠を。
路地裏の 迷宮に遠ざかる笑い声、彷徨える千鳥足。
竹の葉の露が溜まるように、抱いた壺に湧く酒は、
いつまでも尽きることがなかった。
Program note&profile
program Note 曲目解説 by伊左治直
☆熱帯伯爵 Tropical Count
アマゾン川の支流の一つを遊覧した「わたし」の体験から書かれた作品です。その物語じみた詳細解説は、挟み込みプリントをお読み頂けたらと思います。「わたし」とは私のことなのか、日常と幻想の境界線が滲むような、その虚実は私自身にもよくわからないのです。
☆ビリバとバンレイシ Biriba and Sweetsop
これは、ともにトロピカル・フルーツの名前です。異様な外見と甘い味覚のギャップは、作曲に反映されているでしょう。ビリバは「伯爵夫人の果物」、バンレイシは「伯爵の果物」とも呼ばれています。方向性は違えど、熱帯伯爵の番外編でもあります。
☆虹の定理 Teoría del arco iris
スペインの詩人、ガルシア・ロルカ生誕100年祭の委嘱作品。タイトルはロルカの詩から取られています。今回は特別に、曲の結尾に朗読が加わります。
☆夜の黄金 Noche Dorada
この作品も、詳細解説は挟み込みプリントをお読み頂けたらと思いますが、作曲には、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『怪奇譚集』を読んでいたことが影響していていたかもしれません。約17分で今回最も長い作品です。
☆二人猩々・三軒茶屋篇〜機関二人猩々(からくりのににんしょうじょう)
猩々とは大酒飲みの妖怪です。日本各地に伝説があり、七福神の寿老人の代わりに入れられた時代もあったそうで、目出たいものとして考えられていたようです。能の演目『猩々』を、やや大衆化した長唄が『二人猩々』で、猩々(と目出たさ)が倍増しています。
《二人猩々・三軒茶屋篇》は、長唄の台本を“現代語訳”にして、その内容を即興とともに語るものです。ここ三軒茶屋の伝説の居酒屋路地「三角地帯」の常連、新美桂子の書き下ろしです。
そしてそのまま《機関二人猩々》が演奏されます。私はピアノに対して、精巧な「からくり楽器」のイメージがあります。
☆海獣天国 Marine Mammal Paradise
この演奏会の企画が上がった時、まずこの曲を考えました。大変な難曲ですが、廻さんに“ぴったり合う!”と思ったのです。そこから今回の企画が拡がりました。
☆「コモノノクニ物語集」より第4、2、7曲〜特別篇:黒白城の宴
トイピアノと小物楽器の連作から、抜粋でお送りします。そして(場を温めて)そのままギターを迎えて《黒白城の宴》が演奏されます。
黒白城とは大阪城のことです。最近、首相のエレベーター発言で物議を醸しましたが、この大阪城は昭和6年に建てられたものです。多くの人には、桃山時代の豊臣秀吉の城の復元と思われていますが、実は江戸時代の白い天守閣の上に、秀吉の黒い天守閣を重ねてミックスさせた珍妙なデザインなのです。この、人の思い込みと歴史の事実とのズレから、この音楽も遠い未来、南蛮人が大阪城で演奏したルネサンス音楽…と勘違いされる日が来るかもしれません。
Profile
伊左治 直 Sunao Isaji
現代音楽系の作曲や即興演奏から、ブラジル音楽のライブなど、様々な活動を展 開。サッカーや映画、時代劇、民俗学の愛好家でもあり、それらの興味は作曲へ強 く影響を与えている。これまで芥川作曲賞、出光音楽賞、2018年「南蛮劇場―伊左 治直 個展」で佐治敬三賞。
作品集CDに『熱風サウダージ劇場』がある。 近作に、声明・謡・民謡・ホップス歌手の共演と映像による《ユメノ湯巡リ声ノ道 行》(構成・作曲・出演)、鼓童とオーケストラのための《浮島神楽》、こどものための雅楽《踊れ!つくも神〜童子丸てんてこ舞いの巻》(脚本・作曲)など。他 に渋谷パンテオンでの「ジャック・タチ・フィルムフェスティバル」オープニング ライブ、黛敏郎《昭和天平楽》蘇演の指揮、「無垢の予兆――八村義夫生誕八十年 祭」監修。 ライブ活動として「バンダ・ショーロ・エレトリコ」「カデルノジャポニカ」メンバー。
大坪 純平(ギター)Junpei Ohtsubo
エリザベト音楽大学卒業。第34回日本ギターコンクール最高位の他、第45回クラシカルギターコンクール、第1回イーストエンド国際ギターコンクール、第2回パン・パシフィック現代音楽コンクールソロ部門等で上位入賞。
国内外の現代音楽を数多く取り上げ新作初演も意欲的に行う。委嘱作品も多数。2011年より三浦一馬タンゴ5重奏へ参加。2019年ニューヨークで開催されたJUMP「日米新しい音楽の展望シリーズ」に招聘され日本とアメリカの作曲家の新作リサイタルを行う。アポヤン道ギターフェスティバルアートディレクター。テレビマンユニオン音楽事業部所属。
高橋 悠治 (作曲・ピアノ)Yuji Takahashi
1960年草月アートセンター。1974年〜76年季刊誌「トランソニック」。1978年〜85年「水牛楽団」「水牛通信」。
著書:「高橋悠治/コレクション1970年代」「音の静寂 静寂の音」(平凡社)「きっかけの音楽」「カフカノート」(みすず書房)
廻 由美子(ピアノ) Yumiko Meguri
桐朋学園大学音楽学部ピアノ科卒業の後渡米。ジョルジュ・シェベックに学ぶ。帰国後は多彩な演奏活動を展開。バロックから現代に至る20枚に及ぶCDを国内外でリリース。海外メディアにも多数取り上げられる。国内外の作曲家やジャンルを超えたアーティストとのコラボレーションも多く、ドイツをはじめ世界各国の現代音楽祭に招聘されている。2019年、シアター・オリンピクス参加。同年、台湾=カナダの作曲家Hope Leeのピアノ曲集がカナダでリリースされる。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。