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テッセラ音楽祭・第27回「新しい耳」

第1夜

松平敬✖️中川賢一 〜冬の旅〜

前回出演時の公演より ”イノック・アーデン”

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シューベルト:「白鳥の歌」より4曲、

及び「冬の旅」全曲の歌詞大意

シューベルト:「白鳥の歌」より 詩:ハイネ 歌詞大意

 

猟師の娘

美しい娘よ、私のそばへ来て手に手を取ろうよ。ここで休むといいよ。

海と同じく、心に嵐は来るけれど、深い底には真珠が眠る。

 

遠く霧にかすんで姿を現す街。灰色の水路、悲しげに進む船頭。夕日は照らす。

私が恋人を失ったあの場所を。

 

アトラス

僕は世にも不幸なアトラス。この世の苦しみを全部背負う。

独り押し潰されても、心が破裂すればいいさ。

はかり知れぬ幸福を求め、どん底の惨めさを味わう。

 

※アトラスはギリシャ神話に登場する神。両腕と頭で天空を支えるとされる。

 

影法師

夜更の街、あの人の去った家。その前に立つ1人の男が苦しみで両手をよじっている。

月明かりに照らされたその顔を見てゾッとした。それは僕自身だったのだ。影法師!

なぜ私の苦い恋の真似をするのか。

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シューベルト:「冬の旅」 詩:ミュラー  歌詞大意

1. お休み

よそ者としてやって来た私は、よそ者として去っていく。

追われた私が止まる必要はない。

おやすみ、愛しい人よ。

 

2 . 風見の旗

恋人の家の上で、風見の旗と戯れる風。

その旗は哀れな私を追い出そうとしている。

その家の娘は、富める花嫁なのだ。

 

3. 凍った涙

私の頬を、凍った涙が落ちる。

胸は熱く燃え、その氷を溶かそうとしている。

 

4. かじかみ

雪のなか、私は探す、あの人の足跡を。

私の心は死に絶えたよう。

あの人の姿も凍りついている。

心が溶けたら、あの人の姿も溶けてしまう。

 

5. 菩提樹

門の前にある泉。

そこには一本の菩提樹が。

木陰で私は多くの甘い夢を見た。

真夜中にそこを通ると、冷たい風が吹き付けてくる。

遠く離れても菩提樹のざわめきが聞こえる。

「お前の安らぎは、あそこにある」と。

 

6. あふれる涙

雪の上に、私の涙が落ちる。

雪は溶け、小川へ流れていく。

私の涙が熱くなったら、そこは私の恋人の家だ。

 

7. 川の上で

楽しげにさざめいていた流れ、今は冷たく動かない。

氷の上にあの人の名前を刻もう。

硬い殻の下で、心は破れそうに膨れ上がっている。

 

 

 

8. 回想

氷と雪を踏んでいるのに、私の足裏は焼けるよう。

急いで町を出ようと、いくつも石につまづいた。

何と違ったことだろう、むかえ入れられた時は。

その時出会った少女の2つの目に吸い込まれてしまった。

また、あの家の前に立ちたい。

 

9. 鬼火

深い谷底へと誘う鬼火の戯れ。

迷うのには慣れてる。

喜びも悲しみも、鬼火の戯れ。

全ての苦しみも墓に入る。

 

10. 憩い

横になって初めて、疲れに気づく。

休みもせず、嵐に駆り立てられて来たけれど。

小さい宿で身を横たえる。

嵐との戦いであんなにも勇敢だったお前の体を、

今は苦しみが虫のように這い回る。

 

11. 春の夢

夢の中で、5月の花が咲き、鳥がさえずっていた。

しかし、目を覚ますと、暗く、寒い。夢の中で、娘を抱きしめ、口づけた。

目を覚まし、ここにひとり。

あの人を腕に抱くのはいつのこと?

 

12. 孤独

明るい空を、暗い雲が一つ。

明るい街の暮らしの中、ひとり私は疲れた足どりで進む。

ああ!なんて明るく穏やかなのだろう。嵐の時は、こんなに惨めではなかった。

 

13. 郵便馬車

通りから郵便のラッパがきこえる。高くはずむ私の心。

郵便は、あの町から来るのだ。

あの人のいる町から。

 

14. 霜おく頭

霜が私の頭を白く輝かせた。

もう老人になったと喜んだのに、霜が溶けたら黒髪に戻った。

棺までの道は何と遠いのだろう。

 

 

15. からす

一羽のからすが、町からついて来た。

いずれ餌にしたいのか?

旅の杖にすがるのも、もう長くはない。

からすよ、墓場まで忠実についてくるがいい。

 

16. 最後の希望

木々に色づいた葉が見える。

私は一枚の葉に希望をかける。

ああ、その葉は地に落ちて、私の望みも落ちる。

希望の墓に涙を流そう。

 

17. 村で

犬が吠えて鎖を鳴らしてる。

人々は眠り、自分たちにないものを夢みている。

朝にはすべてが消え去るのだ。

犬よ、吠え続けるが良い。

私はすべての夢を見果ててしまったのだから。

 

18. あらしの朝

嵐が空の雲を引き裂く。

ちぎれた雲の間を赤い炎が貫く。

これこそが心にかなった朝だ。

冷たく荒れ狂う冬は自分の姿。

 

19. 幻覚

親しげな光が私の前を踊り、私はそれについて行く。

惨めな旅人を惑わす、あたたかな家と、そこに住む愛しい人の幻影、

それだけが私に残された慰めなのだ。

 

20. 道しるべ

誰も通らない道を、なぜ選ぶのか。

罪も犯していないのに、なぜ荒野に急ぐのか。

安らぎを求めて、休みなくさまよう。

誰も戻ってこない道をたどって。

21. 宿屋

道は、墓地へと私を連れて来た。

ここに宿ろう。疲れて倒れそうだ。

でも空部屋がないと閉め出すのか。

それならば、杖を頼りにただ先へすすもう。

 

22. 勇気

雪が顔に吹き付けたら、払い落とす。

心が胸の内で呟いたら、明るく歌う。

嵐に逆らい、世界へ進もう。

神がいないのなら、自分たちが神様だ。

 

23. 幻の太陽

空には三つの太陽。

長い間見つめていたが、動かない。

お前たちは私の太陽ではない。他人の顔を照らせ。

今、二つは沈んでしまった。

いっそ三つ目も沈んで暗闇になれ。

24. 辻音楽師

村の外れにライアー(ハーディ・ガーディ)弾きが立っている。

氷の上に、はだしで。

誰も聞かず、誰も見ない。

ライアーはいつまでも止まらない。

一緒に行こうか、変わった老人よ。

私の歌に合わせてライアーを奏でておくれ。

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