Pamphlet
テッセラ音楽祭 第21回「新しい耳」第2夜
工藤あかね(ヴォーカル)✖️廻 由美子(ピアノ)〜グレの歌〜
2017年11月4日(土)
Program
第一部
工藤あかね、廻 由美子によるトーク・セッション
「グレの歌について」
~~~~~~~intermission~~~~~~~~~~
第二部
シェーンベルク「グレの歌」第一部
ヴォーカル&ピアノ版 (アルバン・ベルクによる編曲)
1:前奏曲
2:ヴァルデマル「いまや黄昏が、海と陸すべての音を和らげ」
3:トーヴェ「月光がおだやかに滑り」
4:ヴァルデマル「私の馬よ!なぜそんなにもたもたしているのだ!」
5:トーヴェ「星たちが歓呼し、海は輝き」
6:ヴァルデマル「神の玉座の前の天使でさえも」
7:トーヴェ「いま初めてあなたに申し上げます」
8:ヴァルデマル「真夜中になり、祝福されぬものどもが」
9:トーヴェ「あなたは私に愛の眼差しを送り」
10:ヴァルデマル「なんと不思議な人なのだ、トーヴェ!」
11:間奏曲
12:森鳩の歌
Program note&profile
program Note 曲目解説
*物語* ※( )内は上記の曲番号
デンマーク王ヴァルデマルはグレの地で、美しい娘トーヴェと秘めやかな愛を育んでいた(1)。彼はたそがれ時を狂おしい思いで見つめ(2)、夜になると馬を駆って彼女のもとへ向かうのである(4)。トーヴェは深く純粋な愛で、王の心に安らぎを与える(3,5,7)。だが二人の愛はこの世では成就しない。夜が明ければ別れなければならないのだ(8)。だがトーヴェは悟っている。この愛の解決は死に求めるしかないのだと(9)。そんな彼女を感嘆のまなざしで見つめるヴァルデマルだった(10)。ところが彼女の思いは、王妃ヘルヴィヒの計により無残に打ち切られる。トーヴェが惨殺されたことを、森鳩が告げるのであった(12)。
*愛の断層*
「さあ黄金の盃を飲み干しましょう、堂々と、美しく輝ける死のために。それから私たちは至福の口づけのなかに果てて、墓へ降りてゆくのです。あたかもひとつの微笑みのようになって!」(トーヴェが歌う最終曲=9より)
二人に愛の二重唱は与えられていない。二人がそれぞれに歌い重ねてゆく情景は、その日1日の出来事のようでもあり、繰り返されてきた日々のようでもある。お互いが相手に深い愛情を注いでいることは、どの局面を切り取っても明らか。だが二人の愛のレヴェルには、決定的な断絶があるように思われるのだ。愛の応答が極まったところでトーヴェは、愛による死、魂の合一をヴァルデマルに求める(9)。(シェーンベルクも上掲の「さあ黄金の盃を~」からの数小節に、作品随一の美しい音楽をつけている。)だが王は、彼女ほどに死への甘美な憧れも覚悟も持たない。それどころかむしろ彼女と共に、生きることを望んでいたのだろう。それゆえ彼は、トーヴェの死によって天を呪い(第二部)、彼女を探し求める亡霊となって森の中を彷徨う運命になる。(第三部)。最終的にヴァルデマルの救済が示唆されるとはいえ、二人が死してなお結ばれなかったとしたら、それこそが悲劇である。
*演奏意図*
シェーンベルク「グレの歌」(1911)は巨大編成のオーケストラと大合唱、ワーグナー歌手級のソリスト陣を必要とする大規模な作品だが、今回は後期ロマン派の極点といえる第一部を歌手一名とピアノ編曲でお送りする。本来は三人の歌手、すなわちヴァルデマル王(テノール)、トーヴェ(ソプラノ)、森鳩(メゾソプラノ)が必要だが、一人の声で歌うことにより作品の骨格を明らかする目的がある。またピアノだからこそ、オーケストラの豊潤をそぎ落としてなお官能に彩られた、この作品の神秘がつまびらかになるはずである。(工藤あかね)
Profile
工藤 あかね (ソプラノ) Akane Kudo
東京藝術大学卒業。これまでサントリー芸術財団「サマーフェスティバル」、「Tokyo experimental Festival」、「Tête à Tête: The Opera Festival(ロンドン)」、「ダ・ヴィンチ音楽祭in川口」などの音楽祭に出演。テッセラ音楽祭「新しい耳」ではシェーンベルク「グレの歌」第1部全曲を歌った。身体表現を伴う作品をはじめ、数多くの初演を行なう一方、ヴィエルヌ「憂鬱と絶望」、シュルホフやウルマン歌曲の蘇演、サティ「ソクラテス」、シェーンベルク「架空庭園の書」、メシアン「ハラウィ」などの大規模歌曲も手がけている。第1回一柳慧コンテンポラリー賞受賞。
廻 由美子(ピアノ) Yumiko Meguri
桐朋学園大学音楽学部ピアノ科卒業の後、渡米し、ジョルジュ・シェベックに学ぶ。帰国後は多彩な演奏活動を展開。バロックから現代に至る20枚に及ぶCDを国内外でリリース。海外メディアにも多数取り上げられる。国内外の作曲家やジャンルを超えたアーティストとのコラボレーションも数多く、ドイツをはじめ世界各国の現代音楽祭に招聘される。
ドイツWERGO社、カナダのCMC(centre de musique canadienne)よりC Dがリリースされており、いずれも高い評価を受けている。2019年、シアター・オリンピクス参加。
現在、桐朋学園大学音楽学部教授。2007年よりテッセラ音楽祭「新しい耳」主宰。